千鶴夕登の日々雑談

夕登と沙樹由の会話形式で雑談をしているブログです。

処女宮二次創作「想像お姉さま」サンプル

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 車から降りて、先へ続く道を見ると上りが続いている。
 楽をしたいとか時間を短縮させるのなら、この先も車で行けば良いのは分かるけど、やはり目立ちす過ぎるのは私に合わないし、前はそうしていた人も居たようだけど、今では見ないどころか話も聞かないので、その人も止めたのだと思う。そうなると尚更するのは躊躇われる。
 もっと私が幼い時には、車で送り迎えはしてもらっていたけど、今は大人への階段を上る時期という理由で卒業をすることにした。
 ただそれなら、本当は家から徒歩と電車を使うべきなのだろうけど、満員の車内に一人で乗るのはまだ怖く、それは、まだまだ子供の部分がある事を自覚させるし、そうすることで、何時かそれも出来るようになろうと、目標として持つことにしている。

「よし! 今日も歩こう!」

 坂道とはいえ登山というほどではないので、毎日の通学路を歩くのに気合を入れるのはどうかと思うけど、体力に自信がないので仕方のないところだ。何年か続ければ何時かは苦も無くなると考えていたけど、そこへ到達する日は未だに見えない。
 私の先と後ろには同じ制服を着た人たちが歩いている。ここから先は学院へ向かう生徒しかいなく、その中に知り合いが居ないとしても、孤独感を覚えることはなく自分も頑張って歩いて行く気持ちになる。
 これから登る丘の上には、私の通う『聖マリエル女学院』がある。最寄りの駅からは離れているし、その周りには特に民家などがないことから、世間からは隔離されて場所にあると言える。
 私はもともと別の学校へ行くことになっていた。しかし、幼い時から他人との付き合いが苦手な事から、少しずつでも慣れるために、周りに何もない落ち着いた環境の方が良いだろうということになり、聖マリエル女学院が選ばれた。
 とはいえその事実はあまりに幼い時の話なので、学院へ通うに至る事情があったことは最近まで知らなかったが、今も一人で電車にすら乗れないのだから、この学院以外に通う自分は想像できない。
 他の学校なら途中までの送り迎えですら、特別な事に思われそうなので、このぐらいが丁度いいと思う。
 その長い通学路を一人で歩く。周りには同じ制服を着た人たちはいるし、私の様に一人で歩いている人もいるので、寂しいという気持ちにはならないどころか、同年代の人たちなのでむしろ賑やかにさえ感じる。

「おはようございます、白代(しろよ)さん」
「先生、おはようございます」

 迷うことのない一本道を上って行くと、私が通う聖マリエル女学院に辿り着く。校門には先生が立ち生徒に対して朝の挨拶をしている。
 私も先生に挨拶をし校門をくぐると、一気に身が引き締まる。しかしそれは嫌にならない緊張感で寧ろ安堵さえ覚える。
 それは、人混みや騒がしい場所だと、静かにしている自分はおかしい様に思えてしまい、場違いな感じからそこにいる事そのものが苦痛になってしまう。
 だから静かな学院内は、ここに自分はいてもいい証として、とても落ち着くことが出来る。
 それでも校舎に入ると、それまで無音が支配していた周りにも、音を奏でるようになる。それは人の話す声だけではなく物音も合わさり、この場に時の流れを実感させる。
 それらの音は騒がしくなく、聞いていてとても心地が良い。敷地の外から中、そして建物へという二つの壁を越えて来た事で、ここは全く別の世界へと変わり、自分もそんな中に居る事はとても嬉しかった。
 そして、更にもう一つの壁を乗り越えて教室に入る。そこではみんなが雑談をしており、小説などに出て来る日常風景がそのまま現実になる。

「みちるちゃん、おはよう!」

 自分の席へ行く前に周りを見渡していると、突然挨拶をされる。それこそ不意打ちに近いけれど、私はもう慣れているので驚くようなことはない。

「おはようございます、このみさん」

 彼女の小さい背丈、短い髪、くりッとした瞳。その全てが可愛いという言葉だけで済むほど他に言い表せない。
 初めの頃は、当然突然の挨拶に何時も驚いてばかりだけど、そこは可愛い姿で笑顔を向けられると、私に向けてしてくれたことがとても嬉しく、全てを許してしまうから不思議だ。

「毎日あの坂を上ってくるなんて大変だねぇ〜〜」

 敷地内にある寄宿舎から通っているこのみさんからすると、あの坂を上って歩いてくるというのは、とても大変に思えるようで、朝の挨拶の様に聞いてくる。

「確かに大変ですが、今の時期は夏と違い、朝の散歩の様で緑は多く気持ちが良いですよ。それに良い運動にもなりますので、夜はぐっすり眠れます」

 毎日歩いていてもきつい事に変わりない坂だけど、授業を除けば運動をしない私にとって、登下校はむしろ健康のために必要な運動だと言える。

「運動かぁ〜〜私も運動すれば背が伸びるかなぁ?」
「それはどうでしょうか? 『寝る子は育つ』と言いますし。規則正しい生活が……って」
「そうなんだ! それなら私はもっと寝るようにするよ〜〜」
「あっ、このみ……さん、ですから、規則正しい生活をですね……」

 私の話が終わる前に、このみさんは自分の席へ戻り、早速俯せになってしまった。そうすぐに寝られるとは思えないけれど、言われたことを直ぐに実行してしまう辺り、素直過ぎて心配になってしまう。
 でも、そういった素直な所こそが彼女らしく、だからこそ裏表というものを意識することなく誰からも好かれている。
 自分から声を掛ける事が苦手な私だけど、クラスで孤立しなかったのは、そんなこのみさんに助けられていると言える。
 気が付いた時から人と話すのが苦手な私は、それが体に染みつき、周りもその事を感じ取られるのか、なかなか声を掛け辛いことは自覚している。
 もちろんそれを直したいと思っても、いきなり話しかていいものでもないし、どうすればいいの分からず、かと言って相談する相手もいなく何も出来なかった。
 しかし、このみさんが私に話しかけてくれたことで、周りからの印象が変わり、多くはないが、ちょっとしたことで話し掛けてくれるようになっていた。
 まだまだ友達と言える人は少ないけれど、それでも寂しいという気持ちにならなくて済んでいるのだから、このみさんには本当に感謝をしてる。

「このみさん。もうすぐ先生が来ますから、寝てはだめですよ」
「……そ、そうかぁ、残念。続きは後にするよ……」

 そんなに直ぐ寝られるわけないと考えていたのに、このみさんの眠たそうな声に私は驚く。本当に彼女は素直なので皆から『このみちゃん』と『ちゃん』付けで呼ばれるのも納得できる。
 幼稚舎に通うぐらいならともかく、私たちぐらいの年齢になると『ちゃん』付けで呼ぶのは愛称の時ぐらいで、本名では殆どないと思う。
 やはり子供っぽいので、言う方も言われる方も少し恥ずかしいと思うし、昔からの付き合いならまだいいが、今ぐらいの年齢で出会った相手に『ちゃん』を付けるのは、馴れ馴れしく思われそうで使い辛い。
 でもこのみさんは違う。見た目や行動が可愛らしく『ちゃん』を付けても違和感ないどころか、時々自分の事を『このみ』と言うのも自然に受け入れられる。
 だから私も『このみちゃん』と呼んで良いけれど、子供の時から人の名前は『さん』を付けるようにと教えられた事が体に染み込んでいるので、自然に言えないことと、孤立せずに済んだ相手なので、尊敬の意味も含めて『このみさん』と呼んでいる。

「ふあぁぁ〜〜みちるちゃん、またあとでね」
「はい、授業を頑張りましょう」

 そう言うと、このみさんは嫌そうな表情をするけど、その姿も可愛らしい。
 このみさんのもう一つの特徴として、相手に対しては『ちゃん』を付けるというのもあり、これが同級生だけではなく、上級生に対してもするのだから驚きだ。
 そして、それが許せる雰囲気を持っているのだから、このみさんはやっぱり凄いと私は思っている。
 そして、そのこのみさん以上に凄いと思っている人は私には居る。まだ出会ってもいないけれど、何時かその人とお話が出来たらと心の中で願っている。