千鶴夕登の日々雑談

夕登と沙樹由の会話形式で雑談をしているブログです。

処女宮二次創作「お疲れ春菜さん」サンプル

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 夏休みという長い休みが終われば、当然体力は充実し、その勢いで行事の多い二学期も乗り越えて行きたいけれど、今の私の場合そうはならない。
 その原因は自分でも良く分かっているけれど、それを直せないでいる私は、今年も毎年の恒例として夏休みの終盤に残った宿題を前に頭を抱える事となった。
 そしてそれらを片付けた事で、長い休みの間の蓄えられて体力は失われ、二学期が始まると、一学期の終業式以上に元気など無くなっていた。
 それでも宿題を無事に終えたという、大きな山は乗り越えられた安心感があるのは、まだ救いだと言える。

「はああぁぁ〜〜〜〜」

 朝食の時間、つい周りにも聞こえる程の深い溜息をしてしまう。
 そんな深い物をする気は全く無く、してからそのあまりの大きさに、恥ずかしくなってしまい、俯いて周りを見る事も出来なくなってしまった。

「お姉ちゃん、どうしたの? 今日もご飯が進んでいないよ?」

 そんな私を心配して、隣に座るこのみちゃんが俯く私の顔を覗き込んで来た。それを見て大きな溜息をした恥ずかしさよりも、その可愛さへ気持ちは向かってしまった。

「……あ、ああ、うん。何となく食欲がないのよね……自分でも良く分からないけど……夏休みの宿題を終わらせてから、疲れが取れないんだよね……」

 咳や喉の痛みは無いし熱もないので、風邪という事は無い。それに季節は秋なので、もう夏バテというのも考えられなかった。
 そうなると夏休みの終盤、溜めに溜めた宿題を一気に片付けた疲労が、今も残っているのだろうと思っている。

「春菜さん、まだあの時の疲れが取れないの?」
「あの時は大変お世話になりました、委員長さんのおかげです」

 このみちゃんとは反対側の隣に委員長さんは座り、一緒に朝食を摂っている。
 委員長さんは、私が夏休みの宿題でどれほど苦労をしていたのか分かっている。何故ならあの時に頼れる唯一の人だったからだ。

「本当にお世話をしたわ、終わらせている私まで気が気ではなかったですもの」
「心配かけました」

 早く宿題を片付けるには、頭の良い人に手伝ってもらえばいい。
 私の中で頭が良いと言われて、真っ先に思い付くのは秋穂ちゃんだけど、下級生に教えて貰うというのは無理な話だった。

(……でも、秋穂ちゃんなら分かりそうな気もする……)

 勉強のことで秋穂ちゃんが、『分かりません』と答える姿は想像出来ず、もしかしたら教えて貰えるかもしれないと考えたけど、下級生に助けを求めたなんて知られれば、この後様々な問題を生みそうなので止めた。
 そこで私が次に思い付いたのは、委員長さんだった。
 委員長さんなら同じ寄宿舎生なので、朝から晩まで一緒に居られるから楽勝だと考えたからだ。
 しかしそんな甘い考えは、あっさりと打ち砕かれた。
 委員長さんは文字通り委員長をしている以上、とても真面目なので、私が頼んだ時には既に全ての宿題は終わらせてあった。だからそれを写させてくれれば済むだけなので、この時点で終わらせたも同然だと思っていた。
 しかしそこは真面目な委員長さん。答えを写す等という不正を許すわけもなく、結局全部自分で考えなければならなかった。

「春菜さんは直ぐに私から答えを聞き出そうとするから、困ったわ」
「あの時は、それぐらい切羽詰まっていたんだよ〜〜」

 もちろん全くやっていないという事はなかったけれど、時間的には一刻を争っている状況にあって、手の届く位置に答えがあるのだから、教えて欲しいと願うのは普通の望みだと思う。
 でも真面目な委員長さんなので、解き方は何度も教えてくれるものの、答えまでは決して教えてくれなかった。

「それでも春菜先輩は無事に間に合いましたね、最後の姿は凄かったですよ、精も根も尽きていました」
「その姿は忘れて欲しいです……秋穂ちゃん……」

 私の正面では秋穂ちゃんが、朝食を摂っているた。その微笑む表情からも、自分でもあの時は、ボロボロとしか表現しようのない姿を思い出しているようだけど、正直綺麗に忘れて欲しい。

「私は秋穂ちゃんに手伝ってもらって、なんとかなったよ!」

 あのときはこのみちゃんも宿題に困っていて、秋穂ちゃんに教えて貰っていたけど、私とは違い言われるがままに答えを次々に埋めて行ったので、疲労しているようには見えず、とても羨ましく思えた。

「良く分からなかったけど、次々に答えが埋まって行くなんて、初めてだったよ!」
「でも……それはそれで問題があるよね……」

 宿題が早く終わるのは良いけれど、このみちゃんの様子からは勉強をしたという感じは受けられず、やはり答えを教えて貰うだけというのにも、問題がある様に思えた。

「それで、しっかり考えて書いた春菜さんは、覚えていますよね?」
「う……そ、それは……まあ……ね……」

 ただ、委員長さんの導きによって考え、そして答えを埋めて来た私がそれを覚えて、学力の向上へと繋がったのかと言われれば。終わった瞬間その達成感によって、かなりの部分は忘れていた。
 だいたい、それで全てを覚えられる程の記憶力があったら、私の成績はもっと良くなっているはず。
 これまで何度となく夏休みの宿題をしてきても、急に向上することなど無かったのだから、仕方ないと開き直りたいけれど、助けてくれた委員長さんを前にして、それはとても言えなかった。

「ぜ、全部は無理だけど、ある程度は覚えているよ……うん」

 ただ嘘を付いても直ぐにバレてしまうので、そうならないあやふやな感じで言葉を濁した。

「勉強は日々の繰り返しでないと、身に付かないわよ? だから、あの時を機に習慣してなればと思ったんだけど……」
「毎日あんなに勉強はしたくないです」

 夏休み終盤の勉強量を続けたら、本当に体を壊すのは間違いないと断言してもいいと思う。
 私の体は、そこまで勉強に耐えられ無いと思う、自慢にもならない事だけど……。

「あそこまでとは言わないけれど、無理なくしてもらいたいわね」
「はぁ〜〜」

 この返事には全く力を入れなかった。それぐらい嫌で無理な事だからだ。
 ただ、来年はこんな苦労をしない様にしたいと、これも毎年の様にしてしまう反省はする。

「春菜先輩。さっきの溜息もですが疲れが取れていないようですね」

 もし今した溜息が、嫌だという気持ちだけなら、秋穂ちゃんもそんな事を言わなかったと思う。実際疲労もしっかり含まれていた。

「春菜さん寝不足なの? ここの所ずっと朝から疲れているなんて……」

 秋穂ちゃんの言葉から、委員長さんも私の顔をじっと見て心配をしてくれる。
 宿題の時にあれほど迷惑をかけているので、ここは空元気でもしていたいけれど、それすらする気力が湧いて来ない。

「眠りは浅いけど……全く眠れない訳でもないよ、ただ、疲れが取れ難いだけで……」

 原因が寝不足なら、良く寝られるように考えればいいけれど、一応睡眠はしているので、それだけとは思えなかった。

「ん〜〜やっぱり夏バテかなぁ?」

 一番近い症状を言うのなら、やはりそれしか思いつかなかった。暑さに負けて訪れるあれは、毎年の私からやる気を奪ってくれる。

「春菜さん。今は九月、もう秋だから夏バテではないわよ」
「そうなんだよね……大分涼しくて暑さで辛いなんて事も、無くなって来ているしね……」

 症状としては夏バテな感じだけど、この学院は丘の上にあるので、今の時期になると十分涼しくなって来る。
 だから暑さが原因の様に思えず、夏バテとは言えないような気がした。

「お姉ちゃん。体の調子が良くないの? ご飯はもう食べられないの?」
 元気のない声が、このみちゃんも心配させてしまい申し訳なく思う。だからせめて出された朝食だけでもしっかり食べようと箸を伸ばした。

「ん……しょっぱい……」

 朝食の定番として良く食べる鮭の切り身を口に入れるけど、何時もの様な美味しさは感じられず、ただの塩味しか感じられない。
 食欲がなくなるとどれだけ好きな物でも、美味しく無くなってしまう。 このことからも自分の体調が悪いのを実感するけれど、それほど深刻な症状にも思えない。
 なので、みのりちゃんを含めて周りに心配を掛けに様に、私は今一つな味しか感じられない朝食を、時間をかけて食べ終えた。