千鶴夕登の日々雑談

夕登と沙樹由の会話形式で雑談をしているブログです。

冬コミ新刊「通称おまじない同好会」サンプル

冬コミにつきまして

 夕登:冬コミ開催の初日に、サンプル公開です。
沙樹由:結構ギリギリでしたね。
 夕登:間に合って良かったよ。さて、新刊は「通称おまじない同好会」で、A5・36ページで100円となります。場所は3日目の東ラ17a「雫さくら企画」となります。
沙樹由:一般向け作品ですね。
 夕登:誰でも読める健全なお話です。

沙樹由:本当に間に合って良かったですね。
 夕登:でも、サークルチェックはこれからだったりするんだよ。
沙樹由:まだ準備があるんですね。


「通称おまじない同好会」サンプル

プロローグ このみ


 この学院の図書室はとても広いので、目的の本を探すのにも一苦労する。自分で読みたいものが決まっているときは、図書委員に訊けば多少は範囲が狭くなるけれど、そうでないときには、バンザイお手上げになってしまう。
 今日もそんな感じに来たので、眺めているだけで終わりのつもりだった。

「このみちゃんでしたら、あの辺りの本が宜しいかと思いますよ」

 でも、図書室へ入ると受付には秋穂ちゃんが座っていて、私の顔を見るなりお薦めの本がある場所を教えてくれた。

「ありがとうね! 秋穂ちゃん!」

 お礼を言いつつ、私にお薦めの本というのが何なのか気になる。自分でも分からないことを教えられるなんて、秋穂ちゃんはやっぱり凄いと思う。

(この棚の辺りだよね)

 秋穂ちゃんが示した辺りの棚を眺めると、そこに並んでいるのは、私が大好きなおまじないに関する本だった。ちょうど新しいものを知りたかったので、正に今の私にはピッタリな本になる。

「ん〜どれにしようかなぁ?」

 本棚には大きさも厚さも様々な本が並ぶ。そのどれもが占い師や魔法使いといった神秘的な絵が、可愛らしく描かれている。
 何冊か手に取り眺めると、おまじないの目的としては、そのどれもが大差のない内容で、恋愛や運気の上昇など、今まで見てきたものとさほど変わらず、そのやり方に違いがある程度だった。

(でも、この中に私に合うのが、あるのかも知れないんだよね)

 おまじないは、目的が同じでもそのやり方はそれこそ無限にあると言っていい。その中から自分に合う物を捜すのも、楽しみの一つだ。
 だから私は、おなじないが効かなくてもそれほどガッカリしない。それはたまたま自分に合わなかっただけかも知れないし、やり方に間違いがあるに過ぎないと思うからだ。

(でも……そろそろ変化が欲しいなぁ)

 もっとみんなが驚くようなこともやってみたい。特にお姉ちゃんにそれを見せてビックリさせてみたいと思っていた。

「あれ? この本……」

 それこそ全部を読んだら、卒業まで間に合わない本の中で、周りとは明らかに異なる本があった。それこそ、置く場所を間違えているかと思えるほどだった。
 手に取ってみると、その本の表紙には可愛らしい絵は存在しない。裏表紙には、三日月を背にして、箒に跨る魔法使いの絵が描かれているけど、可愛らしい絵とは言えなかった。
 それに本の大きさが、ほぼ正方形なのも他の本とは違っていた。気になって指で計ると僅かに縦に長かったけど、ちょっと見ただけでは分かり難いと思う。

「タイトルは『悠久なる魔術』か、魔術もおまじないと変わらないよね」

 魔術とか魔法とかおまじないに、違いはあるのかも知れないけれど、私からしたら同じ物という認識だった。だからこの本も、この棚に並んでいる他の本と、さほど変わらない本だと思った。

「……あ、これ……」

 だけど、中身を見たとき、それは大きく違っていた。それは、私が今までしてきたおまじないとは違う物で、試してみたいという気持ちが一気に高まった。

「これだよ! 早速お姉ちゃんにも見せないと!」

 私は嬉しさのあまり、その本を胸に抱えて、図書室から飛び出しそうになるけど、受付で秋穂ちゃんに止められたことで、危うく無断持ち出しをせずに済んだ。もしそんなことをしたら、この本を借りることも出来なくなるところだった。

「そんなに慌てて、よほどいい本が見つかったのですね」
「うん! 早速お姉ちゃんにも見せてくるんだ!」
「この時間、春菜先輩でしたら寄宿舎に居ると思いますよ」
「えへへへ、これ見せたら、お姉ちゃんビックリすると思うよ」
「それは楽しみですね、私も後で伺います」
「待っているよっ!」

 話している間に手続きは終わり、私は再び本を抱えて走り出す。後ろから秋穂ちゃんが「走らないほうがいいですよ」と言う声が聞こえたけど、とても歩くことが出来るような状況じゃあない。
 この本を読んだとき、私の中に様々な事が思い付き形になってくる。それはどんどん膨らみ、直ぐにでも実行したくて堪らなくなる。

「お姉ちゃん、まっててね!」

 私は速度をどんどん上げ、最後は全力疾走になって、お姉ちゃんが居る寄宿舎を目指した。





通称おまじない同好会


 夜に隠れて飲む紅茶は美味しいけれど、こうして放課後に飲む紅茶もやっぱり美味しい。
 三学期がまだ始まったばかりの今の時期、丘の上にあるこの学院はとても寒い。それだけにこの温かい紅茶は、香りと共に安らぎを私に与えてくれた。勉学で失われたエネルギーが、それこを目の前にメーターでもあれば、あっという間に上昇するほど効果は大きい。
 今、広い談話室には私一人だけ。その静かな空間で、使用していないとはいえ、暖炉があるこの部屋の癒し効果はとても高い。

「それにしても、チイちゃんは相変わらずだよね」

 チイちゃんは今日も飽きずに、私を陸上部へ勧誘してきた。二年の時ならまだいいとしても、三年の三学期に入部するのは、いくらなんでもどうかと思うし、そろそろ諦めてもいいと思う。

「……このままだと、進学してからも来そうだなぁ……」

 むしろその時がチイちゃんにとって本番であり、今はその為の布石ではないかと、深読みをしたくなるほど熱心だといえる。

「進学したら、何処か部活に入ろうかなぁ、そうすればチイも諦めるだろうし」

 特に打ち込む物がない私は、今まで部活動をしたことがない。運動は苦手なので文化系で幾つか考えたものの、結局どこにも入らず、あえてしたことと言えば図書委員をしたぐらいしかなかった。

「また図書委員をしようかな、でも普通は委員活動をしながら部活動もしているし、そうなると、文芸部とかかなぁ……」
 幾つか頭では浮かび上がるものの、そのどれもが決定力に欠けていた。そもそもの理由として、チイちゃんの勧誘から逃れるためという所から間違っているんだし。

「お姉ちゃん! いる?」

 そんな考えを打ち消すほどの大きな足音と共に、小柄なこのみちゃんが談話室へ入ってきた。

「こ、このみちゃんいきなりどうしたの? そんなに慌てて」
「いいから、この本を読んでよっ!」
「え? ええ、それはいいけど……」

 それこそ押しつけられて渡された本は、正方形に近い珍しい形をしており、表紙を見ただけでは、このみちゃんが好きそうな内容には思えなかった。
 でも、本のタイトルと内容から、このみちゃんが何故ここまで勧めてきたのかも分かった。
 この本は、中世時代の魔術について書かれている。このみちゃんが好きなおまじないにある可愛らしさはないが、それだけにより本格的な物に見えた。

「昔の魔術についての本だよね、今度はこれを試してみたいの?」
「そう! 今まで私がしてきた物と違うから、やってみたい!」
「う、う……ん」

 それこそ目を輝かしているだけに返答に困る。いつものおまじないなら可愛らしいものなのでいいけれど、この本に書いてる物はそんな可愛らしさからは、遠く離れたものばかりしかない。

「で、でも、これ。結構本格的だから、今までのように手軽に出来ないよ?」
「だから部活動としてやろうよ!」
「部活動?」
「お姉ちゃん、前から『部活をした方が良かったかなぁ』って言うから、これを私と一緒にやろうよ、おまじない部として」
「お、おまじない部ね……」

 このみちゃんとの雑談で、私は何度か部活動の話をしたことがある。チイちゃんの誘いを断る口実というも話しているが、二人とも部活動をしていないだけに、具体的に何処に入れば良いなんて結論が、出ることはなかった。

「私も、お姉ちゃんと一緒なら、部活動をしたいと思っているし、おまじないなら他の部とも被らないから良いと思ったんだよ」
「確かにそうだけど、おまじないかぁ……」

 私としても、このみちゃんと一緒に部活動をするのは楽しそうに思える。だけど、その内容がおまじないとなると、考えてしまうことになる。
 もちろん、このみちゃんと一緒におまじないの準備するのは楽しそうだけど、持ってきたこの本は本格的だし、そもそもそのような部を申請して通るとも思えなかった。

「二人とも、楽しそうに何の話をしているのですか?」

 私が考え込んでいると、そこへ秋穂ちゃんが入って来た。
 訊けば、私がここにいるだろうと、このみちゃんに教えたのは秋穂ちゃんで、後から来るつもりでいたそうだ。

「秋穂ちゃん。実は……」

 上級生の私が、下級生の秋穂ちゃんに相談するのもどうかと思うけど、こういうときの解決策を導き出すには、やはり頼りになる存在だ。

「そうですか、おまじないを部活動としてすね。面白そうですが、それはちょっと難しいですね」

 秋穂ちゃんが言うには、内容以前にまず人数不足の為に、部として認められないということだった。必要な最低人数は五人であり、これはどうあっても越えなければならなかった。

「五人は難しいよね……」

 今居るのは、私とこのみちゃんのみ。今から残り三人を集めるにしても、正直まったくあてなど無かった。

「え〜それじゃあ、無理なのぉ? 良いアイデアだと思ったのに……」

 部活動が出来ると考えていたこのみちゃんは、心底残念な表情をし、それを見るとなんとかしたくなる。

「秋穂ちゃん。他に方法はないかな? このみちゃんは、部活動をやりたいみたいだし」

 今までの様に趣味でやるおまじないには、やはり何処か遊びの部分があるのだと思う。だけど、本格的な本を手に入れた以上、しっかりと活動としてやりたいというのが、このみちゃんの望みだと思う。
 それに、私も部活動をしていないからこそ、もし、自分でもやって行けそうな部があるのなら、それをしてみたいとも思った。
 おまじないという物には引っ掛かるけど、このみちゃんと一緒ならそれはそれで楽しくやって行けそうな気がした。

「……そうですね。部はダメですが、同好会としてでしたら学院に申請できますよ」
「同好会? 部とどう違うの?」
「もっと仲間内での活動だと思ってください。部と違って、予算は出ませんし、顧問も就きませんが、空きがあれば部屋は確保できますし、活動日誌を提出すればしっかり評価もされます。むしろ今回の場合は、顧問がいないという点で、部よりも同好会の方がいいでしょう」
「お姉ちゃんと活動出来るのなら、私はそれがいいよ!」

 このみちゃんは、私と一緒に活動できるのなら部には拘らないようで、それこそもう決まったかのように喜ぶ。

「それじゃあ、それでやってみようかな? 私も放課後の活動に興味があるしね。それで、申請はどうすればいいのかな?」

 その辺りの手続きなど、当然今まで興味もなかった私が知るはずもなかった。

「でしたら、私がしますね。三人で頑張りましょう」
「え、秋穂ちゃん、入ってくれるの?」
「ええ、私も放課後の活動には興味がありますし、春菜先輩とこのみちゃんが一緒でしたら楽しそうですしね。いいですよね? このみちゃん」
「うん! 秋穂ちゃんならいいよ!」

 こうして新しく作られる同好会のメンバーは決まったけど、私には気掛かりなことが一つあった。

「でも、おまじないで申請が通るのかな?」

 大会がある訳でもない活動なだけに、それこそ遊びだと思われても不思議ではない。もしダメともなれば、今喜んでいるこのみちゃんが可哀想でならない。

(心配しないで下さい、ちゃんと通しますから)

 私の心配が分かったのか、秋穂ちゃんが耳元で囁き、最後は笑顔でウィンクをしてくれた。



 続く