夕登:前回の夏コミに続きまして、今回も早めに完成しましたので、同人誌のサンプル公開です。 沙樹由:今回も一般向けの話ですね。 夕登:A5で34頁なので、だいたいいつもと同じぐらいです。 沙樹由:値段も100円といつもと同じですね。 夕登:で、今回のサンプルを載せて気が付いたんだけど、「春菜」を「春奈」と書いてある所がありました。申し訳ありません。 沙樹由:折角早く完成しましたのに……。 夕登:気を付けているんだけれど、つい間違てしまうんだよな。最終チェックの時に検索を掛ければよかった。 沙樹由:何ヶ所ありました? 夕登:今回公開のサンプルも含めて、3ヶ所でした……。
冬コミ同人誌「ポイント集め」サンプル
寒さが日々続いているけど、今日もここは暖かく、そこへ温かな紅茶を一口飲めば、体の中からも幸せな感じを受ける。 「はぁ〜〜〜〜放課後のカフェは落ち着くよね……」 ここは学院内にあるカフェテラス。放課後にここで休むと一日の疲れが取れ、優雅な気持ちになれる事から私はとても気に入っている。 「春奈先輩、随分ストレスが溜まっている様な言い方ですね」 向かいの席に座る秋穂ちゃんが、心配そうに私を見つめる。一番始めの溜息は正にそれで、体からストレスを吐き出そうとしていた。 「もうね、日々の勉強だけでも、ストレスになるものだよ……」 学生なのだから勉強をするのは当たり前、何年も続けているのにこれが楽しいと思える時など殆どなく、結局ストレスとして蓄積される。 それを何処かで解消しなければ気持ちは暗くなるばかりなので、それをするのにこのカフェは本当にありがたい存在となっていた。 「勉強よりもストレスが溜まる事が、私にはあるんだけどね」 私の斜め右には委員長さんが座っていて、その視線は正面からよりも貫通力を増しそうなまでに鋭い。 「こ、今年度はあまり迷惑を掛けていないと思うよ? 多分……」 何となく自分へ向けられている様な気がするが、いろいろあった昨年度ならともかく、今年はそれほど迷惑をかけていないと思う。 全くかけていないと断言出来ない所が辛いけれど。 「お姉ちゃん、ここの紅茶は本当に美味しいよね」 一方私の隣に座るこのみちゃんは、そんな周りの会話を気にせず紅茶を楽しんでいた。 放課後になると、私達はカフェテラスでお茶をする事が多くなっていた。毎日は無理だけど、週の半分ぐらいは来ていると思う。 ただお茶を飲むだけなら寄宿舎へ帰った方がお金は掛からない上に、結構良い茶葉もあるので味にも文句はない。 でもこの落ち着いた雰囲気は、ここへ来なければ味わえない。寄宿舎生は日頃外へ出る機会がないだけに、町の喫茶店へ行った気持ちになれるこの場所は、とても重要だった。 ここほど学院に居る気持ちを忘れさせてくれる場所は他に無く、だからこそ勉強を忘れて溜まったストレスを解消させてくれる。 他の人達はこれでストレス解消になっているのか分からないけれど、こうして私に付き合ってくれるので、気に入ってくれていれば嬉しい。 何時の間にか約束をしていなくても自然と集まり、何時もの場所の何時もの席に座る。 四角いテーブルで私の右隣にこのみちゃん、そして向かいには秋穂ちゃんでその隣に委員長さんが座っていた。 これが今の放課後にするお決まりになっていた。 「今日はリンゴの香りがする紅茶だね、それにアップルパイっていのが良いよね」 ここで頼む物は飲み物だけの時もある。値段も外でジュースを買うよりも安いのでお財布に優しい。 しかし今日は少し贅沢をして、お勧めのアップルティーとアップルパイのセットを皆で頼み、そのリンゴの世界に浸っていた。 アップルパイが小さめなのは、夕食に響かない嬉しい配慮だと思う。それにしっかりとした味付けなので、一口でも口の中に広がり満足度は高い。 「こういうお勧めは、安心して食べられていいよね」 委員長さんもこの組み合わせに満足している様で、その笑顔を見ると私まで嬉しくなり、より美味しく感じる。 なお、委員長さんが『安心』と言ったのには訳があり、このカフェテラスでは時折変わった物を出す事でも知られているからだ。 でも私は、それを含めてこのカフェを気に入っている。変わった物を出すというのは、何が起きるのか分からない楽しさがあり、予期出来ない面白さがある。 何回も通っているうちに、そういう気持ちになってしまった。単に慣れて来ただけかもしれないけど、それでいいんだと思う。 「この次も楽しみですよね」 それは秋穂ちゃんも同じで、夜のお茶会で自分が用意するスィーツとは違うという意味で、楽しみにしている様だった。 「皆さん、何時も来てくれてありがとうございます」 そこへ、一人のウェイトレスさんが声を掛けて来てくれた。 このカフェでは学院の生徒何人かが交替で働いている。その中でも比較的よく見るので、顔も覚えている。 黒く長い髪をツインテールにしている事もあり、とても可愛らしいが、背は高いので大人っぽくも見える。結果として年齢は不明だけど、おそらく私達よりは年上だと思う。 人当たりが良く、特別親しくもないのに気軽に話せるのもこの人の特徴で、とてもウェイトレスに向いている様に思えた。 「はい。今日のお勧め、美味しいですね」 喉を通り今も口の中に残るリンゴの味から、真っ先に感想を伝えた。 「ありがとうごさいます」 「マスターにも伝えて下さい、とっても美味しいですと」 「…………はい、伝えました。ありがとうございます」 「え、ええ?」 相変わらずマスターへと言うと、少し間が空く可笑しな反応になる。 奥を見るとカウンター裏に唯一エプロンドレスをしていなく、スーツを着ている大人の女性が居るので、その人がマスターだと思う。 ウェイトレスさんは、その人へ向けて一瞬視線を向けていたので。その間で意思疎通をしていて、それを可能にするまでに二人は長く働いているのかもしれない。 私の勝手な想像でしかないけど。 「あなた達は寄宿舎生ですよね?」 「はい、そうです」 そう答えたのは私ではなく委員長さんだった。代表して言うには一番適任という事で、特に決めたわけでもなくそうなっていた。 「それじゃあ、『ポイントカード』は知っているかな?」 「え〜〜と、みんな知っているわよね?」 委員長さんの問いに、私も含めて知らないという答えは出ない。いくらなんでもそのぐらいの事は知っている。 ただ、知っているだけでしかないけど。